いじめ問題対応中に起こりうる二次被害とその兆候:保護者が知るべきこと
いじめは、子供の心身に深い傷を残す深刻な問題です。その被害は、いじめ行為そのものに留まらず、その後の対応の過程で生じる新たな苦痛によってさらに拡大する可能性があります。これを二次被害と呼びます。
いじめの早期発見と適切な対応は極めて重要ですが、対応を進める保護者や子供が、意図せず、あるいは不適切な対応によって二次被害に直面することが少なくありません。この二次被害は、子供の回復を妨げ、保護者の心身にも大きな負担をかける可能性があります。
本稿では、いじめ問題への対応を進める中で起こりうる二次被害について、その種類や具体的な兆候、そして保護者がどのようにこれに気づき、防ぎ、対応していくべきかについて解説いたします。
二次被害とは何か
いじめにおける二次被害とは、いじめ行為そのものによって生じた被害に加えて、その後の相談や対応の過程、あるいは周囲の反応などによって、被害を受けた子供やその保護者が精神的、物理的にさらなる苦痛を経験することを指します。
例えば、学校や関係機関への相談がうまくいかなかったり、加害者側からの不誠実な対応があったり、あるいは周囲から心無い言葉をかけられたりすることで、被害者は再び傷つき、孤立感を深めることがあります。これは、問題解決に向けた行動を起こしたにも関わらず、状況が改善しないどころか悪化するように感じられるため、いじめそのものによる被害と同様、あるいはそれ以上に深刻な影響を与えることがあります。
いじめ対応中に起こりうる二次被害の種類とその兆候
二次被害は、様々な状況で発生する可能性があります。その主な種類と、保護者が気づくべき兆候を以下に挙げます。
1. 関係機関の不適切な対応による二次被害
学校や教育委員会、警察などの関係機関に相談したにも関わらず、適切な調査が行われなかったり、責任逃れのような態度を取られたり、被害を軽視されたりすることがあります。
- 子供に見られる兆候:
- 学校や相談機関に行くことを極度に嫌がる
- 「どうせ誰も分かってくれない」「話しても無駄だ」と諦めたような言動をする
- 以前にも増して情緒不安定になる、反抗的な態度を取る
- 体調不良を訴える頻度が増える
- 保護者に見られる兆候:
- 対応疲れから無気力になる、または逆に過度に感情的になる
- 不眠や食欲不振など、体調を崩す
- 関係機関への不信感を募らせ、孤立していく
2. 加害者側やその保護者からの二次被害
加害者側からの謝罪が形式的であったり、被害者側を非難したり、接触を試みたりすることがあります。
- 子供に見られる兆候:
- 特定の場所や人物を恐れるようになる
- 急に落ち着きがなくなる、おびえた様子を見せる
- 加害者に関する話題を避ける、または過度に気にする
- 保護者に見られる兆候:
- 加害者側からの連絡や対応に強いストレスを感じる
- 身の危険を感じる、または精神的な追い詰められを感じる
3. 周囲からの無理解や偏見による二次被害
友人、親戚、地域の人々など、周囲からの「大したことない」「やり方が悪い」「被害者側にも問題がある」といった無理解な言葉や態度に傷つくことがあります。また、いじめの情報が不用意に広まることも二次被害となり得ます。
- 子供に見られる兆候:
- 人間関係全般に不信感を抱くようになる
- 引きこもりがちになる、外出を嫌がる
- 自己肯定感がさらに低下する
- 保護者に見られる兆候:
- 周囲に悩みを打ち明けられなくなり、孤立する
- 「自分たちのせいで子供がこんな目に遭っているのではないか」と自責の念に駆られる
- 「噂になっているのではないか」と過度に周囲の目を気にする
4. 情報拡散やネット上での誹謗中傷による二次被害
いじめに関する情報がSNSなどで拡散されたり、匿名で誹謗中傷を受けたりすることがあります。
- 子供に見られる兆候:
- スマートフォンの使用を避ける、または逆に過度に執着する
- ネット上の情報を気に病み、落ち込む
- 名前や写真がネットに出回ることへの恐怖心を抱く
- 保護者に見られる兆候:
- ネット上の情報を探してしまい、精神的に疲弊する
- 情報拡散を止められないことへの無力感を感じる
5. 保護者自身の心身への影響
いじめ対応は長期化することが多く、関係機関との交渉、子供へのケア、情報の収集など、保護者の負担は計り知れません。この過大なストレスは、保護者自身の二次被害と言えます。
- 保護者に見られる兆候:
- 慢性的な疲労感、倦怠感
- 不眠、頭痛、胃痛などの身体症状
- 気分の落ち込み、イライラ、不安感の増大
- 思考力・集中力の低下
- 趣味や外出に対する興味の喪失
二次被害を防ぎ、対応するための保護者の対応
二次被害を防ぎ、万が一起こってしまった場合に適切に対応するためには、保護者自身の準備と冷静な判断が不可欠です。
1. 情報の正確な記録と整理
いじめの兆候を記録することと同様に、いじめに関する学校とのやり取り、話し合いの内容、日付、対応者の名前、言われた言葉などを詳細に記録しておくことが重要です。これは、不適切な対応があった場合の証拠となり、冷静に状況を判断する手助けとなります。メールや手紙のやり取りは保存し、可能であれば録音も検討します。
2. 複数の窓口や専門家の活用
学校への相談だけでなく、教育委員会の窓口、いじめ相談窓口、NPO、弁護士など、複数の機関や専門家に相談することを検討します。一つの窓口に固執せず、対応に疑問を感じたら別の窓口に相談することで、客観的な視点やより専門的なアドバイスを得られる可能性があります。専門家は、関係機関への働きかけ方や法的手段についても助言してくれます。
3. 冷静なコミュニケーションを心がける
学校や加害者側と話し合う際には、感情的にならず、事実に基づいた建設的な話し合いを目指すことが望ましいです。記録に基づき、具体的に何が問題で、どうして欲しいのかを明確に伝えるように努めます。ただし、相手が攻撃的であるなど、対話が困難な場合は、無理に自分たちだけで対応せず、弁護士などの専門家を介することも検討します。
4. 子供の心身の状態を常に気にかける
いじめの被害を受けた子供は、対応の過程でも大きなストレスを感じています。子供の言葉に耳を傾け、感情を受け止め、安心できる居場所であることを伝えます。対応の進捗や状況についても、子供の理解力に合わせて適切に説明し、子供自身の意思や希望を尊重することを忘れてはいけません。子供が「もう対応はやめてほしい」と訴える場合、その気持ちも尊重し、立ち止まる勇気も必要です。
5. 保護者自身のセルフケア
長期にわたるいじめ対応は、保護者の心身を疲弊させます。一人で抱え込まず、信頼できる家族や友人、相談機関などに話を聞いてもらうなど、保護者自身がストレスを軽減し、冷静さを保つためのサポートを求めることも重要です。保護者が心身ともに健康であることは、子供を支える上で最も重要な基盤となります。
まとめ
いじめにおける二次被害は、被害を受けた子供と保護者にとって、いじめそのものと同様に、あるいはそれ以上に深刻な影響を与える可能性があります。関係機関の不適切な対応、加害者側からの不誠実な対応、周囲の無理解など、その原因は多岐にわたります。
保護者は、これらの二次被害が起こりうることを理解し、子供や自身の言動や心身の変化に注意を払うことが重要です。いじめ対応の過程で二次被害の兆候に気づいたら、一人で抱え込まず、複数の相談窓口や専門家を活用し、正確な記録に基づいて冷静な対応を進めることが望ましいです。そして何より、子供の心に寄り添い、保護者自身の心身の健康も大切にしながら、この困難な時期を乗り越えていくことが求められます。